【実施報告】みんなの経験共有会vol.21~温故知新 「福祉の町田を担った市民たち第3弾 ~認知症とともに生きるまちづくりのあゆみ~」
みんなの経験や挑戦を市民の知にしていく場「みんなの経験共有会」。2024年度は新たに<温故知新シリーズ>としてこの先も町田で語り継いでいきたい活動をしている地域活動の先輩をゲストにお招きし、じっくりとお話を伺っています。
2月26日にみんなの経験共有会vol.21~温故知新 「福祉の町田を担った市民たち第3弾 ~認知症とともに生きるまちづくりのあゆみ~」を開催しました。当日はオンラインで配信し、アーカイブ視聴を含め17名の方にご参加いただきました。
認知症とともに生きるまちづくり
町田市では、認知症の人を中心として共に生きる全ての人が自分らしく希望をもって活躍することができる「認知症とともに生きるまち」の実現に取り組んでいます。2021年9月21日には、町田市と一般社団法人Dフレンズ町田が「認知症とともに生きるまちづくりに関する連携協定」を締結しました。Dカフェ、D活、Dブックス、Dワークショップ、Dサミット等、認知症(dementia)のDを頭文字にした数多くの事業が展開されています。どの事業も行政、民間企業、医療・福祉関係者、市民が連携し、組織や立場を越えて実践されているのが大きな特徴です。 |
当日お話いただいたのは松本礼子さん(NPO法人ひまわりの会・一般社団法人Dフレンズ町田代表理事、HATARAKU認知症ネットワーク町田代表)と森光輝さん(社会福祉法人七五三会 高齢者サービス課課長)です。進行は、サポートオフィス橋本が担当しました。
以下、当日のお話をレポートします。
今日のお話の概要
2 試してダメだったらやめる潔さ 3 「本人会議」―当事者の声を聴く 4 向かう方向をそのつど確認する |
■「認知症とともに生きるまちづくり」について(報告:森光輝氏)
―活動のスタート
2016年2月に急に松本さんから「森さん申し込んでおいたからね~」とご連絡があって、それが「第1回認知症まちづくりファシリテーター講座」でした。この講座は各自治体から3名1チームで参加するという条件だったのですが、松本さんが声をかけた3人はお互いを知らないまま参加しました。後にこのメンバーとDカフェの立ち上げを一緒に進めることになりました。
Dカフェ(正式名称:認知症カフェ)は、オランダで「アルツハイマーカフェ」として発祥し世界各国に広まった取り組みです。日本では、2012年の認知症施策推進5カ年計画(通称:オレンジプラン)に初めて明記されました。続く、新オレンジプランと呼ばれる「認知症施策推進総合戦略」では、全市町村に設置をしてくださいと示されました。
認知症カフェは、認知症の人やその家族、支援者、地域住民などが気軽に集まって交流や情報交換する場です。認知症と診断されても何も支援がない「空白の期間」に生じる孤立感を解決する社会資源として位置付けられています。
町田でははじめ「出張認知症カフェ事業」という名称でスタートしました。いろいろなイベントに出張して「出張認知症カフェ&休憩スペース」としてイベント的に開催していました。
―認知症カフェからDカフェへ
ある時、「認知症カフェ」を今一度大きく動かしていこうという中で、名前をどうするかという議論になりました。その時に、「メタボ」のようにみんなが何となく知っている、そんな展開になるネーミングが良いのではないかという話になりました。そこで最終的に、英語で認知症は「Dementia」と言うことから、その頭文字を取って町田では認知症カフェを「Dカフェ」と呼ぼうということになりました。「D」は「Dear(親愛な、親密な)」や「Diversity(多様性)」などの意味も込められ、パンチラインのある「言葉」として大切にしながら進めてきました。
―スタバ計画始動
さらに、どこで展開していこうかというときに、スターバックスコーヒーさんにお話をしに行きました。何度か打ち合わせを重ねて2016年7月26日にスタバで初めてのDカフェを実施しました。Dカフェは、認知症の方が来て専門家が相談を受けるという場ではないということで、写真が趣味の方がいたら写真を飾ってみようとか、音楽が好きな人がいたら演奏をしてみようとか、とにかく物は試しでやってみようという形で第1回を開催しました。その中で何より嬉しかったのが、スタバの方がどんどん提案をしてくれたことですね。そういう空気で実施できたのはとても良かったです。
-一人ひとりの想い
異業種でプロジェクトを進めるという初めての経験をしていく中で思ったことは、参加した方がやろうと思った理由はなんなんだろうということです。スターバックスの方に聞いてみると、「私たちは地域の人々の心を豊かにするカフェづくりを進めていて、Dカフェはその中の1つです」と教えてもらいました。
また市役所の方は、市役所以外の色々な人と協力し合いながら事業を進めていきたいと思っているんだということも知りました。みんなDカフェを実施するその先に目指しているものは、少しずつ違うんだけど、同じ方向を向いてるということを、確認しながら進めていました。
あるときに出張Dカフェを和光大学ポプリホール鶴川の中にある「カフェマーケット」で開催しました。そのときに責任者の方になぜ協力してくださったかを聞いたら、「以前ケーキ屋で働いていたときに毎回認知症の方が来られていて、もっと何か自分にできることがあったのではとずっと思っていた」とお話してくださいました。それぞれの方の経験や想いが「Dカフェ」という形につながっているということがたくさんありました。その方々の人生の中の「伏線回収」という感じでした。それを丁寧に聞いていくのが、私たちの役割かなと思って、意識的に聞きながら進めていきました。
―Dカフェの広がり
2019年4月10日、スターバックスコーヒーと町田市が、「認知症の人にやさしい地域づくりに関する包括的連携協定」を締結しました。2019年11月に南町田グランベリーパークがオープンして、ここのスタバでもDカフェを実施して、町田はスタバできたらDカフェをやるという流れになり、最終的に市内のスタバ全9店舗で開催するまでに広がりました。
また、町田市内ではスタバ以外でもいろいろな場所でたくさんのDカフェが展開されています。コロナ禍で、オンラインDカフェをスタートしたときには、全国から参加者がいらしてまた一風変わったDカフェになりました。
いろいろやる中で失敗することもありましたけど、試験運転して、ダメだったらやめようという潔さをもって進めてきました。それと何より松本さんとよく言っていたのは「妄想とわくわく」を大事にしようということです。
■トークセッション
Q1.色々な方の思いを聞くということと、思いを伝えるということを徹底的に大切にされてきたということが伝わりましたが、改めてその点について教えてください。
森さん:
そうですね。その点でいえば認知症の方と一緒にやっていくということも大切にしていました。当事者の方でずっと参加している方がいたのですが、その方の隣に座ったときに「松本さんに連れまわされているから全部参加しているんですか?(笑)」と聞いたらその方は、「Dカフェに行くと初めて参加される認知症の方や家族の方がいらっしゃるから、隣に座って緊張をほぐしたり、大丈夫だよみたいな話をしたりするのが自分の役割です」とお話されていました。その方はずっと一緒にDカフェを作ってくださっていたんだ、変な質問しちゃったなと思いました。
松本さん:
認知症カフェをやる原動力となった「本人会議*」が生まれた経緯をお話します。若年性認知症になったけれども制度が使えないため、うちのデイサービスに来ている方がいらっしゃいました。本人はデイサービスに通ってそこで何かやっていれば妻が悲しまないという、それだけで通っていました。通っているうちに、実は「友達がほしい」と言うんですね。そこからですよね。「じゃあ作りましょうか」と話して、声をかけてみたら自分と同じ体験をして、自分が受けた衝撃を理解してくれる人がいた。その後その方はどんどん友達が増えて、それで「本人会議」というのが出来上がったんです。
*本人会議:認知症の人同士が集い、自身の体験を話し合ったり、日頃感じていることや悩みを共有する場。こうした場には、認知症の本人やご自身が認知症かもしれないと思われている方が自由に参加することができる。当事者でないと分からない体験や気持ちを共有することで、認知症とともによく生きるための知恵や心構えを共有する場にもなっている。
Q2.Dカフェを実施するにあたり、多くの福祉の専門職の方が関わってこられたと思います。多様な方に関わっていただくコツについてお聞きできればと思っております。
森さん:
先ほども話したようにその人がなんで関わるのかを私はいつも確認しています。それとビジョンをお互いに伝え合って、向きを一緒にしておくということ。それも1回限りじゃなくて、つどつど確認する、その作業を怠らないということが大事かなと思います。
松本さん:
うちでもDカフェやりたいんですって相談をいただくのですが、何かその方が壁を感じているとして、それに対してこうしたらいいですみたいなことは答えられません。Dカフェは、そこにいる人でつくる場だから正解はないんですね。だから相談されたら、「あなたどうしたいの」「へえそうなんだ」みたいな感じでただ聞いているんです。そうするとその人は自分の中で解決していっちゃう、そんな感じです。
森さん:
そもそもDカフェは、パイロット版でいっぱい試して失敗も色々して、最終的に行き着いたことは(特別な催しなどは)何もせず、その時決めるということだったんです。何もしないと決めたからこそ、参加される方も参加しやすいし、携わる方も携わりやすくなるっていうことになってるんですかね。
Q3.行政や企業など、多様なセクターと事業を進めるコツと進める上で難しかったことがあれば教えてください。
森さん:
行政として、企業としてどうしたいかとかどうなりたいかだけを聞いちゃうと、なんかうまくいかないですよね。一緒にやるその人の思いをちゃんと私たちは聞き出さないと本当に次には進めない。本屋なら本を売りたいとかそれぞれの企業の目的の部分もありますけど、別の思いを持ってやってる人もいっぱいいるので、そのあたりを聞いて理解しながら一緒にやっていくというのが大事かなと思います。熱心な担当者な方に聞いてみると、実は家族の介護していたりとかそういうことはありましたね。
松本さん:
ある企業からご相談いただいた内容を「本人会議」で相談したら「やりたくない」という意見がありました。それで「町田の本人会議ではこんなリアクションがあった」と企業の方に返しました。企業の方からも「私たちはこう考えている」というお返事をいただきました。それを本人会議に再度伝えたところ、その事業は参加したい人が参加してやるということに変化しました。企業でも行政でも、お互いそうやって考え方を伝えていくことがやっぱり大事かなと思います。
Q4.DカフェやDブックスなど、「D」を頭文字にした事業が町田市内に展開して啓発の輪が広がっているその理由はずばりなんだと思いますか?
松本さん:
わかりません。多分、町の力だと思います。
森さん:
松本さんがDカフェの前からやっている「本人会議」がとても強かったと思います。事業を進めるにあたって、全部やっぱり一旦は、「本人会議」に持ち帰ってもらってましたね。プロセスの中で、認知症の方がどう思ったのか、どう感じたのかということを常に意識していましたね。
松本さん:
そうね、それは繰り返し繰り返しやってましたね。
森さん:
市役所の事業だと計画がきちんと文章化されて進めていくのが基本ですが、市役所の方たちも、計画はしっかり進めつつも、「本人会議」の意見にはしっかりと耳を傾けてくれましたね。一度「Dカード」をつくるという計画がありました。「本人会議」に相談したら「要らない」と。市の方もそれを聞いて「じゃあやめましょう」と思い切ってと判断してくださいました。あの潔さはよかったですね。
参加者からの質問
Q5.(参加者からの質問)Dブックスはどこの書店にあるのでしょうか。
松本さん:
TSUTAYA町田木曽店とアメリア町田根岸店の中のくまざわ書店にあります。
Q6.(参加者からの質問)認知症の方が自分で認知症のことを受け入れて、Dカフェのような事業への参加につなげるためにどのようなフォローをされていますか?
森さん:
認知症カフェに参加することは手段でしかないのですが、そもそも受診自体にかなり抵抗がある人も多いです。行きたいんだけど、なんか行きたくないっていう感じ。でも、受診が全てじゃありません。その人が認知症かもしれないなと思い始める前の、その人らしい生き方を本人と話してみたりします。
松本さん:
その人が自分が認知症であることを受け入れるかどうかについては、私が説得することではありません。やっても無駄です。しかし、当事者同士の中にいることで、そこから受け入れることが多いです。圧倒的に仲間の力は大きいです。「自分だけじゃない」「自分の弱さを言ってもいいんだ」というところから、受け入れていくのだと思います。
■クロージング
みんなの経験共有会では、最後にゲストの方からメッセージを掲げていただき、クロージングとしています。松本さん、森さんにとって「認知症とともに生きるまちづくり」とは?
森さん:「その人の顔が見えているか」
認知症の人にやさしいまちづくりとか、認知症とともに生きるまちづくりとか、共生社会とか言われていますが、それって何だろうと考えるとやっぱり「その人の顔が見えているか」ということだと思っています。
私も失敗していく中でこれは良くなかったなと思うのは、何か先に成果物をイメージしてしまっていて、これをやるから認知症の方に参加してもらうとか、やってもらうとか、そういう考え方をしていたときでした。最終的には「〇〇さんの生活が豊かになるためにこれをやっている」というのがポイントで、その人の顔が見えるからこそ自分も頑張れるんだなと思います。
松本さん:「分業 その人の立場でやることがある」
その人がいるということそのものが「ともに生きる」の始まりなんですよね。最近、クリーニング屋さんやお蕎麦屋さんとかいろいろな立場から、認知症の人がここに住んでいてもいいんだと思えるまちづくりができると思えるような出来事が増えてきています。
1つの例を挙げると、クリーニング屋さんから洋服を受け取るときに、認知症の方が「こんなにきれいなの、私のじゃない」と言って受け取ってくれないというご相談をいただいたきました。「どうしたらいいだろうね」とそのときも一緒に考えました。認知症の人がいるからこそ、その方の優しい気持ちや「どうしたらいいだろう?」という問いかけが生まれるのだと思いました。ともに生きる社会をつくるには、やっぱり1人1人がいないと成り立たない。それこそが相互関係だと思います。それが仕事だからだとしても、こうした積み重ねがまちを作っていくのだと思います。
当日のアーカイブ動画をご覧になりたい方は、サポートオフィスまでメール(info@machida-support.or.jp)でご連絡ください。
過去の開催記事はこちらからご覧ください。
<2024年度温故知新シリーズ>
▼5月:みんなの経験共有会vol.17 「町田の冒険遊び場と子ども真ん中の取り組みのあゆみ」
https://machida-support.or.jp/report/report_vol-17/
▼7月:みんなの経験共有会vol.18~温故知新 「福祉の町田を担った市民たち ~町田すまいの会のあゆみ~」
https://machida-support.or.jp/report/report_vol_18/
▼11月:みんなの経験共有会vol.19~温故知新 「福祉の町田を担った市民たち第2弾 ~町田ハンディキャブ友の会~」
https://machida-support.or.jp/report/report_vol_19/
▼2月:みんなの経験共有会vol.20「町田のまちづくり ~玉川学園地区まちづくりの会のあゆみ~」
https://machida-support.or.jp/report/performance/report_vol_20/
<2023年度>
▼4月:みんなの経験共有会vol.11~「福祉」の枠を超えた事業に挑戦中!
https://machida-support.or.jp/report/230427-2/
▼5月:みんなの経験共有会vol.12~仕事と地域活動のバランスについて考える!
https://machida-support.or.jp/report/230524-2/
▼7月:みんなの経験共有会vol.13~「ボランティアやってみた・受け入れてみた!」
https://machida-support.or.jp/report/230703/
▼9月:みんなの経験共有会vol.14~「企業で「地域貢献」担当をしてみた!」
https://machida-support.or.jp/report/performance/report-230915/
▼2月:みんなの経験共有会vol.15~「専門性を生かして地域活動やってみた!★医療・福祉編★」
https://machida-support.or.jp/report/240215/
▼3月:みんなの経験共有会vol.16~「専門性を生かして地域活動やってみた!★保育・教育編★」
https://machida-support.or.jp/report/240321/
2022年度の過去開催回の実施報告は、下記ページからご覧ください。
*記事の最下部に過去回のリンクを掲載しています*
https://machida-support.or.jp/report/performance/salon03/