【実施報告】みんなの経験共有会vol.18~温故知新 「福祉の町田を担った市民たち ~町田すまいの会のあゆみ~」
みんなの経験や挑戦を市民の知にしていく場「みんなの経験共有会」。2024年度は新たに<温故知新シリーズ>としてこの先も町田で語り継いでいきたい活動をしている地域活動の先輩をゲストにお招きし、じっくりとお話を伺います。
7月23日、みんなの経験共有会vol.18「福祉の町田を担った市民たち ~町田すまいの会のあゆみ~」を開催し、町田すまいの会の約30年間の取り組みについて伺いました。当日はオンラインで配信し、アーカイブ希望も含め20名の方にご参加いただきました。
■ゲスト 町田すまいの会 町田すまいの会は、1995年に設立し、2002年にNPO法人化。建築分野と福祉分野の専門家が分野をこえて連携し、介護保険制度が施行される前から高齢者、障がい者の住宅改修の取り組みを推進。町田市住宅改修アドバイザー制度など画期的な取り組みを行政と連携して実施してきました。初期のミッションを達成し、本年法人解散することになりました。28年にわたり制度の先を見据えた取り組みを広げてきた団体です。 |
当日お越しいただいたのは、大宇根成子さん(元代表)、高本明生さん(元副代表)、江藤良子さん、佐々木裕子さん、菊地やよいさんです。以下、当日のお話をレポートします。
今日のお話の概要 1 町田すまいの会の沿革 2 まだ制度になっていない活動をどのように展開してきたか 3 忌憚ない意見が飛び交う対等な関係性づくりのコツ |
■町田すまいの会沿革(報告:高本氏)
ー町田すまいの会立ち上げ前
1993年から1995年にかけて全国の自治体で高齢社会総合計画を策定する動きがあり、町田市では大宇根さんが建築関係の代表者として委員を務めていました。中間発表のシンポジウムに高本は一般市民として参加し、「市民と協働でケアネットワークを作りバリアフリーシティー町田を形成するという計画は素晴らしいが、絵に描いた餅になってしまってはもったいない。もし市が本当にやる気があるのならば、私たちは市民として受け皿を作りたいと思います」と会場から発言をさせていただきました。そこから大宇根さんと出会い、活動を始めることになりました。
ー活動をスタートし、町田市や東京都に働きかける
1995年に町田すまいの会を設立し、町田市はこれまでの住宅改修制度を専門家がアドバイザーとして関わる制度に変えました。私たち建築士3名ほどと、リハビリテーションの専門家(理学療法士・作業療法士)がアドバイザーを担いました。その頃は年間100件ほどの相談がありました。1998年頃になると介護保険制度ができるという噂が流れてきて、従来の制度からガラッと変わる恐れがあったので、3年間の住宅改修に関するアンケート調査を町田市が行い、住宅改修の効果を調査しました。1999年には、アンケート結果をもとに東京都に申し入れをしました。すると都はこのようなデータを持っておらず迷っていた部分もあったとのことで、1999年後半から住宅改修に関する調査検討委員会というワーキンググループを作り、我々もそこに参加し、研究者や経験者が集まった会議を行いました。最終的には住宅改修に関する調査検討報告書という形でまとめました。
■町田すまいの会への質問
Q1.医療・福祉など他分野の方とともに取り組んできた経験から、連携のコツやポイントなどがあれば教えてください。コミュニケーションが難しかったことなどありましたか?
高本さん:
建築の知識だけでは困りごと抱えた当事者にとって有効で適切な解決策に結びつかないという認識が最初からあり、会の活動は医療・介護・施工会社などをはじめいろんな方のお話を伺うことから始まりました。どちらかというと、僕ら(建築や設計)は後からこの分野に参加したので、身体のことなど教えてもらえることがすごくありがたかったです。
大宇根さん:
町田すまいの会は「”住まいに困りごとを抱える人のための住宅改修”という目標のためにどう連携するか」を基本的なテーマとする集まりですから、それに向かっていろんな意見が出るのは当たり前だと思っていました。どうすればその方がよりよい生活ができるかという同じ想いを持ったうえで、視点が違うところから話が出てくるのです。他分野の人たちの話を聞くことそのものが非常に興味深くて、集まりそのものに意義を感じていました。
家を建てるときって皆さんだいたい若くてお金があるときですよね。歳を取って身体が不自由になることは想像していないことが多いんです。それは設計を行う我々建築家も同じです。住宅は、生まれてから死ぬまでの生活の舞台そのものですから、変化が起きたときにどうなるのかという視点を踏まえた建築をしなくてはいけないということを他分野の方から教えていただきました。
Q2.皆さんの会議等にお邪魔させていただいたときに、忌憚のないフラットな意見交換が印象的でした。そういう雰囲気づくりが対等な関係性につながっているのでしょうか?
菊地さん:
NPOは、会社みたいに決められた時間で雇用されているわけではありません。私は対等でなければ活動に行く必要はないって思っていました。もちろん年齢とか知識量、担える作業量には差がありますが、それをみんなが尊重しながらぶつけ合わなかったらいいものを作っていくことができないんじゃないかと捉えてきました。
佐々木さん:
会の発足当時の話ですが、メンバーの中で自然と役割分担ができ、私は会計、集会の準備、お知らせの発送や名簿管理などの事務局的な作業を担ってきました。頻繁な集会のお陰で会員同士のコミュニケーションも盛んでワイワイと賑やかに過ごして来た思い出があります。同時に住宅改修の事例に活躍する会員のサポートもさせてもらうことにより忙しくも意義のある活動の日々を送ることが出来ました。
菊地さん:
どんな組織でもピラミッド型にならざるを得ない場面があると思います。でもピラミッドのトップだけあっても下がなかったら立ち上がらないわけです。だから自分の立ち位置をそれぞれが自覚しながら活動していましたし、トップの人が動かないと私たちが動けないという場合は、はっきりそのことを申し上げていました。
高本さん:
町田すまいの会がやっていた勉強会やワークショップもそうです。研修のときも、新人の方・ベテランの方それぞれが1つのテーブルに混在するわけです。上下関係を気にしていたらいろんな意見出てこないんですよ。だから、「経験とか年齢とかは関係なく自分がこうだと思ったことはどんどん発言していい雰囲気にしましょうね」ということはお願いしていました。そうじゃないとアイデアが出てこないし、他の人の言うことに耳を貸すことで気づきが生まれるのだと思います。
司会:
サポートオフィスのスタッフがすまいの会の事務所にお邪魔すると、美味しいごはんやお菓子をいただいたという話をよく聞きます。食を通したコミュニケーションも大切にされていたのでしょうか?
高本さん:
それぞれ料理が得意な人がやってくださっていたんですよ。みんなでお鍋をしたこともありましたね。
菊地さん:
活動した皆さんに謝礼などをお支払いできないことも多いです。好意で来ていただいた皆さんに分配はできないけれど、少しをみんなで分け合って食べて会話して温かくなって帰ればそのほうがいいかなと思っていました。
Q3.まだ制度がない、社会に認知されていない時代から福祉と住まいの課題に取り組んできたときのことについて教えてください。
高本さん:
90年代は、ちょうど高齢社会が来るぞと言われていた時期だったんですよ。自分が建築会社に勤めていた頃には、身体の不調などで住まいに困っているという話を聞くことはありました。実際に住宅改修をやっている現場を休日に見せてもらったりはしていたので、住宅改修には特殊な技術が必要なんだなという感覚もありました。独立して町田で設計事務所を開くときに、町田にこういった内容の勉強会がないかいろいろ調べたところ、なかったので、じゃあ作るしかないというのが発端でした。
建築系の人間が手すりをつけようとすると、下地のあるところに(その方が使いやすいかどうかを考慮せずに)つけてしまう。逆にリハビリ系の人が浴槽を注文すると、その住宅のサイズに合わないものを買ってしまう。そういうことがあるのは非常にもったいないことなので、分野を超えてどう解決するか、無駄なく効率的に動くための方法を考える日々でした。
大宇根さん:
私は親が脳梗塞で倒れて、肢体不自由者になったことが関心を持つきっかけでした。今まで住んでいた家が、住みづらくなるということを親の病気をきっかけに初めて体験しました。それで、将来その方の状況が変わっても住みやすい住宅づくりを見越した建築をしないといけないと考え始めていたところで、高本さんに出会ったんです。
最初はとにかく勉強するところから始まりました。そして現場や事例を共有してみんなで考える。その過程を何度も何度も繰り返しました。その過程では、TOTOテクニカルセンターに見学に行き、浴槽などについて意見をさせていただきました。当時、曲線が美しいデザインの浴槽が増えていましたが、障がいによってはまっすぐになっていないと不便な場合があります。誰のためのデザインなのかということを考え続けました。
高本さん:
ほとんど寝たきりだった方が、住宅改修した数ヵ月後に玄関先まで出てきて迎え入れてくれたという話を聞いたりました。住宅改修は、その人の生活や身体の状況を変えるという劇的な効果があるのだと思います。まずはやってみて、それをみんなで共有して、なんとか考えて、成果が出たらそれをまたみんなで共有するということを繰り返してここまで来られました。
Q4.(参加者からの事前質問より)社会課題を見つけて、改善したい・何か動き出したいと思ったときに重要なポイントはなんですか?
大宇根さん:
「課題だ」と個人が感じたことが社会的にも大事なものだったら、他にも多くの人が課題だと感じているかもしれないし、そういう人たちと一緒になってやっていけば広がるんじゃないかと思います。その過程で行政との連携は大きかったです。活動が社会に広がっていくかどうかは、政策とつながっていくことも必要だと思います。
司会:
行政とのコミュニケーションで大事にしたことはありますか?
大宇根さん:
やっぱり現場の実態を担当者に伝えて、一緒に共感してもらうことです。書式だけではなく、できたら現場に一緒に来てもらうようにしていました。制度が充実していったのはやはり行政の方の熱があったからだと思います。それができたのはやはり現場をご一緒していたからだと思います。
高本さん:
僕らは行政がやる気だったら市民は受け皿として動きますよというスタンスだったので、行政と長く協働関係を築くために「委託費がが少ないよ!」という要望のコミュニケーションはせず、経費は乗せるけど、利益は乗せない見積もりで活動していました。僕たちがなぜそれで食べていけたかは不思議ですが(笑)、それぞれ生計を立てるための仕事をした上で、NPOとして協力していこうと思っていました。
Q5.(参加者からの事前質問より)「福祉のまち町田」において現在の課題と理想はなんでしょうか?
高本さん:
〇〇審議会といった市民や専門家の意見を聞いて計画を立てるというやり方は悪くないと思いますが、計画を立てるプロセスにおいて駅周辺など特定の場所に集中するのではなく、町田全体の住宅街や坂、段差などの細かいところを見つめ、どうしたら街での暮らしが成り立っていくかということをもっと詳細に見ていってほしいと思います。
大宇根さん:
非常に高齢者が増えている中、人と人との付き合いそのもの大切にするソフトの仕組みが必要だと思います。人が集まって何かが生まれる場が大事ですね。
Q6.(参加者からの事前質問より)法人の設立から解散まで一番印象に残っていることや苦労したこと、皆さんに伝えたいメッセージがあればお願いします。
高本さん:
僕はやっぱりみんながいたからできた、1人じゃできなかったということをすごく実感しています。
大宇根さん:
何かで集まるにはきっかけが必要なのですが、日々のいろんな人の生活の中から生まれてくる必然的な要望がきっかけになっていくのだと思います。人は一人で悩むよりは誰かに相談するところから始まって、誰かに相談したからこそ始まることがある。問題を抱えている人がいたら、誰かに話すことから始めてほしいと思います。
江藤さん:
私はここ何年か活動をご一緒させていただき、雑用係をしてきました。ずっと楽しく、自分の家がこうなったらいいなと思いながら活動を共にしてきました。
佐々木さん:
メンバーの一員として取り組んでいくには、信頼関係が大事だと思います。ITが発達した今の時代に、LINEやzoomでみんなと連絡を取り合い、スピーディーに意思決定ができなかったのは苦労した点の一つでした。もしこのまま活動を続けたとしたら、ITを活用して顔を合わせなくてもメンバーの信頼関係を築けるかどうかが課題の一つになったと思います。
菊地さん:
私にとって町田すまいの会は居場所だったなと思います。小さなことでも会や社会の役に立てるという感覚は喜びがありました。細々と続けていこうという雰囲気もあった中、今回解散という運びになり、ふと考えると自分の年齢も災いしてきて簡単な仕事も少し億劫になってきたなと感じることがあります。人に与えたことに対する責任が取れるかと言われると今は少し自信がないです。会を中途半端に終わらせるよりは閉会に向けて今日まで頑張ってこれてよかったと思っていますが、終わりが見えてくると少し寂しいなと思っています。
■クロージング
みんなの経験共有会では、最後にゲストの方からメッセージを掲げていただき、クロージングとしています。皆さんにとって「町田すまいの会」とは?
高本さん:人生の一ステージ
40代の頃から後期高齢者になるまで同じテーマで活動してきた、僕の人生の一ステージです。
大宇根さん:私自身の親の介護と高本さんとの出会いから始まった後半の人生の舞台の中心
高本さんとまったく同じことを書いていてびっくりしました。
江藤さん:家の修理の楽しみを知った
活動を通して専門家に教えてもらえて楽しみを知れました。
佐々木さん:大人の学校
40代半ばから30年かけて、住まいを学び、建築を学び、人間関係を学んだ自分にとっての学校のようなものでした。
菊地さん:学びの場でした
いいことも悪いことも(笑)学んだ場だったなと思います。
今回町田すまいの会の皆さんのお話を聞き、まだ制度になっていない新しい活動を作り出すときのポイントや学び続ける姿勢、対等な関係性づくりのコツを学ぶことができました。当日のアーカイブ動画をご覧になりたい方は、サポートオフィスまでメール(info@machida-support.or.jp)でご連絡ください。
「これから住宅に関する相談をしたいときその相手が信頼できるかはどうすればよいですか?」という参加者からの質問に対して、「公の機関と関わっているかどうか」などがチェックポイントになることをお話くださいました。また、時間がある場合は、相手に問い合わせたうえで、現場で作業している様子を見せてもらうのもおすすめと教えていただきました。ぜひ参考にしてください。
過去の開催記事はこちらからご覧ください。
<2024年度温故知新シリーズ>
▼5月:みんなの経験共有会vol.18 「福祉の町田を担った市民たち ~町田すまいの会のあゆみ~」
https://machida-support.or.jp/report/report_vol-17/
<2023年度>
▼4月:みんなの経験共有会vol.11~「福祉」の枠を超えた事業に挑戦中!
https://machida-support.or.jp/report/230427-2/
▼5月:みんなの経験共有会vol.12~仕事と地域活動のバランスについて考える!
https://machida-support.or.jp/report/230524-2/
▼7月:みんなの経験共有会vol.13~「ボランティアやってみた・受け入れてみた!」
https://machida-support.or.jp/report/230703/
▼9月:みんなの経験共有会vol.14~「企業で「地域貢献」担当をしてみた!」
https://machida-support.or.jp/report/performance/report-230915/
▼2月:みんなの経験共有会vol.15~「専門性を生かして地域活動やってみた!★医療・福祉編★」
https://machida-support.or.jp/report/240215/
▼3月:みんなの経験共有会vol.16~「専門性を生かして地域活動やってみた!★保育・教育編★」
https://machida-support.or.jp/report/240321/
2022年度の過去開催回の実施報告は、下記ページからご覧ください。
*記事の最下部に過去回のリンクを掲載しています*
https://machida-support.or.jp/report/performance/salon03/