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実施報告performance

実施報告 2023年05月17日

【実施報告】みんなの経験共有会vol.11~「福祉」の枠を超えた事業に挑戦中!

4月27日、オンラインでみんなの経験共有会vol.11~「『福祉』の枠を超えた事業に挑戦中!」を開催し、22名の方にご参加いただきました。配信は小山田桜台団地に2023年4月にオープンした地域密着型デイサービス「Cherish(チェリッシュ)」(社会福祉法人嘉祥会)から行いました。

今回は、まさに現在も福祉の枠を超えた取り組みに挑戦されている清水謙一氏(社会福祉法人まちだ育成会)、高井大輔氏(NPO法人プラナス)、彌一勲氏(社会福祉法人嘉祥会)の3名にお越しいただきました。進行はサポートオフィスの杉山久美子が務めました。

 

 

「福祉」の枠を超えた事業に挑戦中!ポイントまとめ

1 想いや熱量は誰よりも持つ。冷静になったら負け!

2 目の前にいる人の生活をよりよくするために、何が必要かを一緒に考えてもらう

3 自分が楽しむということはもちろん、ほかの人が一緒にやっていて楽しいかどうかも意識する!

それ以外にも、壁が高すぎるときは視点を逸らし、無理に乗り越えようとせず違うアプローチをすることもポイントとして挙がりました。

以下、トークセッションの様子をご紹介します。


<自己紹介>

清水さん:
社会福祉法人まちだ育成会の事業部長をしております清水です。知的障害や身体障害の方の働く場を8拠点運営している法人で、施設には18歳以上の方が通っています。福祉と農業をかけあわせ、違う産業への関わりを持っている点が法人の特徴で、しいたけの栽培、ハスを使った製品、紅花の染物など、日本の伝統文化に取り組んでいます。

今回は「福祉の壁をぶっ壊す」をテーマとして掲げていますが、それはサポートオフィスが主催している「まちだづくりカレッジ」という講座で僕が言い出したものです。その講座では組織の理念について学びました。理念とは「達成したら法人がいらなくなる状態のことを指す」と聞き、自分にとっての理念はなんだろうと考えたときに、障害という言葉がなくなることが自分にとっての理念だと考えました。ですが障害という言葉がなくなるためにはいくつか壁があると思っています。

彌さん:
社会福祉法人嘉祥会の彌(ひさし)です。普段はケアマネジャー業務と法人運営の全般を担っています。それ以外の顔としてはまちだをつなげる30人のプログラムに参加して発案した、町田の各地でテントサウナを実施する「まちだテントサウナキャラバン」にも関わっています。

本日の会場、地域密着型デイサービス「Cherish」は、リハビリテーション専門のデイサービスです。小山田を拠点に、人生100年時代を豊かに生きることができるまち、認知症になっても住み続けられるまちづくりを目指しています。小山田桜台団地にデイサービスを構えたのは、隣のお店でお買い物をしたり、隣の店舗でおしゃべりして過ごしたりと、商店街の中でリハビリテーション以外の時間も活き活きと過ごしてほしいと思っているからです。施設名にある「Cherish」とは、「大切にする」という意味です。大切にすべき対象は、利用者はもちろん、ご家族、地域、職員、法人、それから「未来」だと考えています。

高井さん:
NPO法人プラナスの理事をしております高井です。プラナスは小山田で知的障害の方の通所事業を運営しています。私が以前、法政大学のボランティアセンターで働いていた頃、多摩境という地域では人口が増えてきた一方で障害を持った方のための施設がなく、当事者のお母さん方が集まって活動をされていました。その際、学生さんに活動に関わってほしいということで自分は職員として参加していました。その後法人を立ち上げることになり、大学のボラセンを辞めて関わるようになりました。ラテン語で「プラナス」とは「桜の木」を意味します。日本では桜の木はお花見など人が集まる場所の象徴なので、プラナスのもとに障害のある人もない人もみんな集まって、地域のことを考えていくというイメージで名付けました。

私は福祉との出会いは大学時代のサークル活動でした。サークルの先輩に誘われて行った飲み会が町田障がい者青年学級のもので、そのときから関わるようになったので、自分にとって福祉は「一緒に自分たちの生活や地域をよくしよう」というイメージです。「支援する」という風には捉えていません。

事業としてはコロナをきっかけに、「里山ごはん」というお弁当作りを行っています。障害の持っている人の食事を良いものにしたいということが一つの理由ですが、近くで採れた美味しい食材を使い、良いものを食べてもらいたいという想いもあります。

 

<トークセッション>
Q1.まずは「福祉」の枠を超えるどんな挑戦(事業)をされているかについて教えてください。

清水さん:
現在挑戦中の話をしたいと思います。ひかり療育園の施設の建て替えをする関係で、地域に開かれた施設を作るための企画に職員を巻き込む形で取り組んでいます。携わりたい職員を公募し、新しい事業を検討するためのワークショップ*を昨年度実施していました。やってみるといろいろなことが見えてきて、うちの職員はいろいろなことができるんだな、いろいろなこと考えているんだなと実感することができました。アイデアを事業にしていく、新しい事業のためには何が必要なのかということを福祉の支援職も知っておいた方がいいと思い、職員も参画型で実施しました。公募して申込が0だったらどうしようと思っていましたが(笑)、20名くらいの職員が応募してくれ、最後まで取り組んでくれました。

職員からは、3つの事業が出てきました。近所の人が遠慮なくおせっかいしないながら子どもから高齢者まで楽しめる茶屋・駄菓子屋や、障害のある子どもを持つお母さんがゆっくり休める場所で、ステージがあって、劇団や音楽が楽しめる場などのアイデアが出てきました。

*本ワークショップではサポートオフィスが企画・講師などの伴走支援をさせていただきました。ワークショップの様子はこちらからご覧いただけます。

彌さん:
福祉の枠を超えた事業について地域密着型デイサービス「Cherish」をご紹介したいと思います。Cherishでは、高齢者がおしゃれをして来たくなるデイサービスを目指して4月にオープンしました。目の前にいる人への支援ももちろん大切ですが、「出かけたいと思う地域にする」という環境に働きかけることも大事な自立支援の一環だと思っています。商店街がシャッターばかりだと出かける気持ちにはなりにくいですよね。そこで、商店街で連携してお魚市を月に1度実施してみたり、イベントやってみたりと、行こうという動機を作るしかけ作りに取り組んでいます。

最近は法人で酒まんじゅうを作って売り始めました。高齢者支援センターなどは「お気軽にどうぞ」と書いてあってもなかなか相談しにくいのが現状です。介護が必要になってからではなく、もっと手前で関わることができるように、専門職が酒まんじゅうを売ることで、もっと気軽にご相談いただける機会が作れるといいなと思っています。酒まんじゅう、今推している事業です(笑)。

お魚市や酒まんじゅうなどのアイデアは、職員や地域の人と話していて「それいいな」と思ったことを介護に落とし込むようにしています。アイデアを実施するときは、いろいろな人と話してから試すようにしています。

高井さん:
日々の食事をみんなが食べたくなるものにしたいなと思い挑戦中です。学生の時、実習先で出てきたお昼が病院の食事みたいだったんです。入院中だったらいいかなと思ったんですけど、毎日はちょっとなと思ったんですね。毎日通う方が毎日食べたくなるお弁当を作りたいと思ったのはそれが原点でもあります。

始めたのはコロナが広がり、以前から取っていたお弁当が取れなくなったのがきっかけでした。最初はご飯とおかず何品だったのですが、もっともっといいものをと思って今の形になってきました。見た目も良いとおいしそうですよね。写真の写し方や発信の仕方にもこだわっています。

現在、ぼたん園開園中のお休処ではラーメンも出しています。カウンターしかないような豚骨ラーメン屋を皆さんはイメージできると思うのですが、うちの利用者さんはそういうところに行ったことない人が多いんです。福祉施設の食事ってこうだよね、というイメージがあると思うんですけど、それを変えていきたいと思っています。

今、福祉施設の職員になりたい人は少ないと思います。給与が多くもらえたらなりたい職業になっていくのかもしれないですが、それだけじゃなくて、身の回りにある資源に目をむけて「丁寧な生活」と言われるようなお金じゃない豊かさをアピールできると、働きたいなと思う人が出てくるのではないかと思っています。

そのためには、私たちが生み出すサービスや商品のイメージである「ブランド」を作っていかないといけないと思っています。「里山ごはん」というお弁当を通して僕たちのこだわっていることは「こういうことです」ということが伝わり、他の仕事やサービスにつながっていくと思っています。

 

Q2.何かに取り組む際、周りの職員を巻き込んでいく、熱量を伝えていくために何か工夫されていることはありますか?

高井さん:
お二方に比べて組織が小さいですし、僕は巻き込むのが上手じゃないと思っています。器用じゃないほうなので、周りが仕方なくできないことを支えてくれているような感じです。また、直接熱量を伝えるのは苦手ですが、発信は頑張っています。その反応が組織内に伝わることが職員のモチベーションにもなるのではないかなと思っています。

彌さん:
心はしょっちゅう折れています(笑)。年上の方を巻き込まなくてはいけない場面も多々ありますが、目の前にいる人の生活をよりよくするために何が必要かを一緒に考えてもらうようにしています。利用者さんの生活を良くしたい、地域をよくしたいという思いは皆さん持っていると思うので、それに対しいろいろな意見があるのはいいことだと思います。面白がってくれる人が出てくれるような尖ったアイデア、人が「なにそれ?」と盛り上がって食いついてくれるようなアイデアが好きです。

清水さん:
なかなか難しい質問だなと思いながら二人の話を聞いていました。うちの場合、まちだ育成会の管理職が比較的年齢が近く、若いメンバーなのでうまく進みやすいです。また、私が言ったことを管理職の人たちがかみ砕いて盛り上げながら自分の職場の職員に伝えるのがすごくうまいんだと思います。うちの法人のカラーとしてノリが明るくて、やるときはやるぞという雰囲気なのも関係していると思います。

自分としては、想いや熱量は誰よりも持つようにしています。思考する時間、行動する時間も大切にしています。

 

Q3.(彌さんからお二人へ)障害福祉分の制度の壁、ボトルネックになっていることってどんなものがあるのでしょうか?

高井さん:
私は制度的な壁をあまり感じないでやっています。それはいいところも悪いところもあるのですが、法人が小さいのでどちらかというと制度をうまく使うという感じです。

壁が高すぎるときは視点を逸らし、無理に乗り越えようとせず違うアプローチをするのが大切かなと思っています。実は今年4月に株式会社を立ち上げました。NPO法人ではどうしてもやりにくいところが出てしまうので、福祉以外のアプローチをするための会社を立ち上げて、これから動かしていく予定です。みんなが質の高い生活を送るというゴールは変わらないのですが、そのための手段はいろいろあるということですね。

清水さん:
高齢福祉の分野よりも障害福祉は自由度が高いと思います。私も制度の壁はあまり感じていないのですが、障害分野は18~65歳が対象となりライフステージが長いので、生活を安定させるための支援のほうが優先になるという利用者象の背景などが壁になることはあります。

また、社会福祉法人はコンプライアンスのことなどやらなくてはいけないことがいっぱいあるので、職員の自主的で自由な取り組みに使える時間をどう捻出してあげるかというところはネックにはなると感じています。

 

Q4.(高井さんから清水さんへ)町田市大賀藕絲(ぐうし)館の商品をずっと見ています。こういうことができたらいいなと思うのですが、歴史や伝統を活かして新しいことをやることに対しての難しさがあれば教えてください。組織単位で歴史と新しいもののバランス感覚を保るための工夫などもあるのでしょうか?

清水さん:
藕絲館は職員が自ら壁を壊していて、伝統を大事にしつつ、販売方法などは新しい方法にチャレンジしています。ものづくりが好きな職員を募集して、そういう人を採用しています。

そこにいるリーダーの影響が一番強いので、そこにどんな人を配置するかを気を付けています。具体的には、藕絲館の歴史や文化を理解しているリーダーをはじめ、昔の藕絲館を知っている20年近く働いている職員3~4人を配置しています。長くいることによるデメリットもあると思うのですが、そのメリットは今は活かせている状態です。

 

<参加者からの質問>
Q5.既存のものや制度、前例にとらわれない発想を持っていたいとは常々思っていますが、アタマの硬さや自信の無さで、つい無難になってしまいがち。柔らかアタマで大胆発想で前進したい!何か秘訣やアドバイスがあればください!

彌さん:
僕が頭も固くて、介護福祉制度に則ったことを基本的にはやっています。発想を飛ばすために対話をいろんな人と繰り返すことは意識しています。面白いかなと思うエッセンスを加えて、提案して、それをみんなに揉んでもらうようにしています。

清水さん:
冷静になったら負けだと思っています!(笑)
冷静になったらできない理由もいっぱい出てくるので…とりあえず一歩やってみます。そうすると道は開けてくると思います。人生は一回ですし、それで死ぬわけでもないので。

高井さん:
自分が楽しむということはもちろん大事なのですが、ほかの人が一緒にやって楽しいかは常に意識しています。利用者、支援者が楽しいということと、関わってくれる周りのAさん、Bさんが楽しめるかということはかなり考えています。

 

Q6.福祉は自分ごとと感じていない人に、伝えたい思いを教えてください。

清水さん:
まさしくそれが福祉の壁だなと思います。今の日本の制度や福祉の歴史が、福祉を自分ごとじゃないようにしてきたし、福祉を自分ごとにしてもらうための取り組みをしてこなかった自分たちの責任でもあると思っています。最近、ようやく福祉がどうやって地域に出ていくか・地域の資源をどう使うかについて目が向けられる時代になっていました。まさしくこれからそういう時代をどう作っていくかが課題だと思います。

彌さん:
幸せになるために福祉があると思うのですが、介護相談窓口や認知症啓発活動など地域に開かれた事業をド直球にやってきても、なかなか普段の暮らしとは隔たりがあり、何かあったときの駆け込み寺のような存在だったんです。福祉や介護はもっと日常に溶け込ませる必要があると思っています。酒まんじゅうなどもその一環です。楽しみながら関わった相手が専門職で、そのときにふわっと困りごとを相談できるみたいな。認知症って、物忘れがあって生活に支障があるから認知症と診断されるんです。物忘れがあっても生活に支障がなければ認知症と診断されないんですよ。

高井さん:
今まさに変わってきていると僕も感じています。自分が大学で学んでたときに比べると福祉という壁を感じず飛び込める時代になってきたりしていると思います。ただ福祉を担っている人が壁を作り、意識しすぎているという面もあるのかも?と思ったりしています。


<クロージング>
みんなの経験共有会では、最後にゲストの方からメッセージを掲げていただき、クロージングとしています。今回の一言は、「福祉の枠を超えるとは?」です。

登壇者の皆さん。左から、まちだ育成会の清水さん、嘉祥会の彌さん、プラナスの高井さん。

 

清水さん:やりたい事 みんなの目標にする事
本当はかっこいいことを言いたいなと思ったのですが、結局まずは自分がやりたい・障害をなくすことにチャレンジしたいなということ。そしてそれは一人じゃできないなと。みんなで温度感を揃えてやっていきたいという想いを込めています。

彌さん:生活を想像する
福祉の壁を超えるために大切にしているのが、「生活を想像する」ということです。こういうことがあったらいいな、こういう風にしたらここに暮らす人が安心して生活できるかな、ここに至るまでにどんなボトルネックがあり困っていたのかなということを想像しながら、介護保険でできないことだったら、自費介護サービスや法人の自主事業で何とかできないかと考える。相手の生活を想像することが自分にとっての原点です。

高井さん:福祉の壁をこえるのではなく、福祉を利用する
私たちは「福祉」の側に立っていると思いがちですが、主役は「実現したい未来」であり、そのために使えるものの1つが「福祉」なんだと思っています。そう考えるとすると、何も使えるのは福祉だけではなく、人や文化、知恵、お金、自然などさまざまなものがあると思っています。

 

高井さんが最後の一言に書いた図。実現したい未来が中心んにあり、それを達成するために周りにある福祉、人、文化、知恵、金、自然を活用していくということが表されています。

 


次回みんなの経験共有会は5月24日、「仕事と地域活動のバランスについて考える!」をテーマに開催します。
詳細・お申込みについては下記よりご覧ください。
https://machida-support.or.jp/event/salon202305/

2022年度の過去開催回の実施報告は、下記ページからご覧ください。
*記事の最下部に過去回のリンクを掲載しています*
https://machida-support.or.jp/report/performance/salon03/

 

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