【開催レポート*第一部講演会全文】まちだづくりサロン特別編「私が動く、地域が変わる~今見つめ直す市民活動の価値と未来」
2021年10月23日、わくわくプラザ町田で行われた、まちだづくりサロン特別編<私が動く、地域が変わる~今見つめ直す市民活動の価値と未来>。第一部の講演会では、NPO法設立の立役者の一人山岡義典さんに講演をいただきました。第二部では、法政大学時代の山岡さんの教え子であり市内でNPO法人プラナスを運営している高井大輔さん、サポートオフィススタッフ橋本空の法政大学多摩キャンパス3世代鼎談を実施しました。ここからは、講演会の全文をご紹介します。当日参加できなかった方はもちろん、参加されたへ方も地域活動の楽しさや醍醐味、そして活動を継続するヒントを再びお届けできればと思います。
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第一部:山岡義典さんのご講演全文
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皆さんこんにちは。今日はまちだづくりサロン特別編にお招きいただきありがとうございます。長い間コロナの影響で対面の講演はなかったのですが、10月初めに約2年ぶりに八王子市で講演会を行い、やっぱり対面で皆さんにお話しするほうがいいなと感じました。本当に画面だけでやるオンラインの講演は元気が出ないというか、調子が出ない。今日はこうやって皆さんと一緒に時間を過ごせることを嬉しく思います。
今日は「市民活動というのはどんなもので、どういう価値があって、未来に向けて何をしないといけないのか」ということをお話しさせていただきたいと思います。
まずは図を使い市民活動の概念についてお話します。これが頭に入っていると、その後の話がすごくわかりやすいと思います。そのあとに、さまざまな市民活動のスタイルをお伝えしたくいくつかの事例をご紹介します。それを踏まえ、本講演のまとめとして、市民活動の価値と未来について3つのポイントをお話していきます。
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市民活動組織の展開プロセス
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まず図1をご覧ください。市民活動というのはいろいろな形で行われていますが、概念的に言うと1つは個人(Person)でやるものがあります。「ボランティア」とも言いますが、ボランティアという意識のないものもたくさんありますね。「金儲けにならないけれども、何か社会のために、影響があることをやりたい」と、実に多くの人が個人でやっています。
そのうち、人に呼び掛けて複数人でやろうということになると、仲間ができてグループ(Group)になる。3人だったり5人だったり10人だったり、だんだん増える、あるいはだんだん減る。とにかくグループになってくると、少し違う動きが出てきます。社会的に見ると個人でやるより非常に幅が広い活動ができる。グループは参加するも自由、やめるも自由。ですから社会的にはそれほど責任ある仕事ではありませんが、「楽しく自由にできる」という点で、グループがたくさんある社会が豊かな社会だろうと思います。
その後、グループの中から少し規約を作って「あなたが代表ね」「私が会計よ」「私が渉外よ」など、それぞれが責任をもって役割を担うようになると1つの組織(Organization)になる。ノンプロフィットオーガナイゼーション(任意団体)になるわけです。こうなりますと、だいたいは拠点を持つこともできる。契約するにはちょっと難しいけれども、人を雇おうと思えば雇えなくはない。ただやはり法人格を持っていない任意団体ですから、誰がどう責任を持つかというのは外からは見えにくい状態です。
日本の市民活動は1980~1990年代に発達してきましたが、この「組織」の先に行けないもどかしさがありました。阪神淡路大震災が起こった後から、新しい法人格(Corporation)を取れるようにしようという動きが始まり、今から20数年前にNPO法に基づき、特定非営利活動法人という法人格で登記できることになった。そのことで、契約・取引、あるいは行政との協働、企業との協働などが可能になりました。NPO法の施行によってこの20年間でさまざまな活動が発展できたのではないかと思います。
何も、個人(Person)よりもグループ(Group)が偉くって、グループ(Group)よりも任意団体(Organization)が偉くて、任意団体(Organization)よりも法的組織(Corporation)が偉い、そんなことはないですね。おそらく社会の中で一番良いのは、Pがたくさんいる社会、Gがたくさんある社会、Oがたくさんある社会、しかしCに行こうと思えばCとして自立していけるようになるという、さまざまなものが市民活動の担い手として存在している、それが豊かな社会だろうと思います。
活動の仕方でいうと、個人P(Person)は、「やるぞ!」「やりたい!」「やらねば!」という「Passion(情熱)」を糧に、理屈抜きで個人の好きなことができる。それがグループ(Group)になるとみんなで共有しないといけないものがたくさんありますから、個人の情熱というよりも組織としても社会的使命というものが重要となってくる。特に法的組織(Corporation)になった場合は、組織のミッションが外から見えることが重要になります。そういう意味でも市民活動では、さまざまな担い手がいるということが重要なのです。また、個人(Person)から法的組織(Corporation)になるにつれて、無償のスタッフから有償のスタッフへと雇用が発生する。あるいはポケットマネーでやっていたことが、財団からの助成金や行政からの補助金、委託金など社会的な資金源に変わってくるという側面があることも重要です。
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市民活動(NPO等)と行政活動の多様な協働
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次に、「協働」について考えていきたく、図2をご紹介します。
この図では、市民活動と行政活動の多様な協働の姿を5つの段階に分けて表現しています。偶数ではちょっと議論しにくい。まあ5つくらいが頭に入りやすいので5つに分けてあります。図の中の左側が市民活動の領域で、右側にいくほどに行政の活動領域ということになります。
市民活動領域の一番左側にある「A」は、行政と全く関係なく独自で市民活動をやっているイメージです。先ほどご紹介した個人(Person)やグループ(Group)が、だいたいここにあたりますね。行政からの補助金などいい制度があれば使うという感じです。図2の真ん中に位置する「C」になると、行政との間に少し責任のある対応が必要になります。「D」の領域は、基本的には行政が行うものを市民活動として委託してやるといった状態。「E」の領域までくると、市民活動とは関係なく行政が責任を持って行っているものを指すイメージです。例えば生活保護とかそういうたぐいの領域です。市民活動で生活保護をするなんてできる話じゃない。そういう意味でも社会的な活動はいろんなやり方があるのです。
私たちはここで紹介した「B・C・D」を、広義の協働領域として視野に入れる必要があると思います。そしてこのうちの最も狭義の協働は「C」が指す対等な協働です。「C」だけを限定して議論していてもあまり生産性がないから、「B・C・D」と少し幅を持たせて議論して、あるべき協働の姿を考える。その中でできるだけ「C」に近づけるような協働の形を模索していけるといいのではないかと思っています。
この各領域は、活動や政策によってシフトするということが重要です。固定されているわけではないのですね。左から右に、右から左にというようにね、政策によって変わりうる、そこが重要なんです。選挙によって政策が変わると、今まで行政がやっていたものを市民団体がやる、市民団体が勝手にやったことを行政がサポートすることができる、という関係は協働を議論する上では前提として捉えておくといいと思います。
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地域社会における参加・協働
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図3では、地域参加と協働の構図について説明したいと思います。
この件についてはさまざまな議論がありますが、この図は僕が20年近く、少しずつ改善して使っていて、理解・納得できるのではないかと思います。
私たちが市民活動を考える上ではまず市民組織がある。グループ(Group)であれ、任意団体(Organization)であれ、法的組織(Corporation)であれ、市民組織がありますよね。独自に活動することも多いですが、行政との協働になると自治体との関係が生まれてくる。自治体には首長がいて、町田市で言うと市長さんですね、そしてそれに議会や議員の選挙などもある。自治体と市民組織の協働というのは町田市でもいろいろと行われています。例えば、今日のこの講演会も協働の事業の一つですよね。これはこの20年くらいの間に日本各地で起こってきたことです。
一方、図3でも示しているように、市民組織と企業との協働もあります。行政と企業との協働は、下手すると談合組織になってしまうからあんまりやらない。競争してもらったほうがいい。そういう意味で自治体と企業の直接の協働というのは、一般的になりにくいし、少々危なっかしい。ところがNPO(非営利活動組織)は企業と協働ができます。
自治体と市民組織の協働のためには、町内会や老人クラブや子供会などの地縁組織の存在が重要です。これはNPOができる前から長年、自治体と深い関係があります。ところが市民組織と地縁組織の関係性はあまり良くなかったし、一緒に活動する場面も少なかった。でも最近は違いますね。各地で地縁組織が、単体では活動が成り立たなくなっている。そこで非常に市民活動的な、有志による活動が地縁組織内でも増えてきています。ここで点線で囲んだ部分は、まだ弱い関係性だけどこれからは重要な組織であることを示しています。
企業の場合は地域産業組織などいろんなものがありますが、代表的なのは商工会議所です。市内の商工会議所、町村などの商工会議所、あるいは農協など分野ごとの業界団体が地域にあります。地域産業組織と市民組織は少しずつ新しい関係性が出来てきている。例えばNPOのメンバーが商店街の会長さんをやっているなど、商店街はいい例がたくさんでてきていますね。
図3の点線で囲った<地縁組織>と<地域産業組織>は、昔から密接な関係がある。<市民組織(NPO等)>との間の点線部分は、これから関係性を強くしていくことが重要だということを示しています。市民組織の協働相手としては、行政以外にも、大学、病院、博物館、美術館などさまざまなものがある。それらとどう関係性を作っていくか。
これは組織の関係だけでは成り立たないし、質が上がっていきません。そのためにもこの市民・住民、つまり個人が、それらの組織や活動に「参加する」という点が重要です。例えば、行政への参加という文脈では、選挙にいく事が大切な参加方法です。また企業へのそれは、いいもの・好きなものは買うけど嫌いなものは買わないという方法で参加ができる。するとその企業が要らないものを作るのをやめるなど、消費者に対してきちんと対応するようになる。賢い個人が消費をすると企業に対して良い影響を与えることができます。
特にこの市民組織、NPO等にとって、「参加」はとても重要です。自由に集まることができる市民組織は、誰もが参加しやすい組織です。「協働」は組織と組織の関係、「参加」は個人が積極的にやることが大事です。参加する個人は責任を持って組織の企画や活動に関わること。そのためには学習が必要で、学習には情報が必要ということになります。情報公開がないと参加ができない。
協働は本来一緒に活動することがない組織同士が、共通の社会的な目的を果たすためにそれぞれのリソースを持ち寄って対等な立場で協力してともに働くことを指す。そのためにも、やはり情報が必要ですよね。情報公開のないところに協働無し、参加も協働も情報公開がなされていないとできない。参加はなく、協働だけ(組織の関係だけ)だと癒着になる可能性がありますから、参加は協働の土台。参加があって初めて協働というのは有効に働くという関係性を理解しておいていただきたいと思います。
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6つの事例に見る市民活動
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次に「イメージとしての市民活動」として、市民社会創造ファンドで創立15周年記念として作った「市民社会の創造に向けて」という冊子の中から、充実した市民活動の事例をご紹介します。
まずは中央労働金庫がやっている非常に小規模な助成プログラムの取り組みをご紹介します。1つは「ママのための保健室」の開設事業。昔はおじいさんやおばあさんなど、子育てについて助言してくれる人が身の周りにたくさんいたけど、今はそういう人が少なくてお母さんは非常に困っている。その困った経験を持った人たちが、次の世代のお母さんたちが相談できる仕組みを作ろうと組織を作り始め、今はちゃんと拠点を持って相談事業をしている団体です。もう1つは介護に困っている人たちがいろんな問題を持ち寄って話しているうちにお互いに相談できる場作りを始めた活動団体です。この活動の中から、介護している男性たちのグループも生まれてきている。
いずれの団体も当事者意識が元になってできた団体で、お医者さん、保健師さんなどの専門家といろんな市民が参加する、地域活動の代表的な例です。当事者の問題意識から発展して、グループを作り、当事者の中で閉じるのではなく専門家とも協働し、多くの市民と一緒になってやると、非常に開かれたものになるという事例でした。
次の事例は、武田薬品工業株式会社の助成でやっているタケダ・ウェルビーイング・プログラムにおいて進められた長期療養の子どもたちに生きる力を与えるための事業です。
ここでは、NPO法人 子ども劇場千葉県センターの方たちが、小児科の病棟に芝居を届ける活動をやっておられます。子ども劇場は、自分の子どもたちに生のお芝居を見せたいという人たちが会員制度を作って全国規模になっていきました。お母さんたちが観劇に接する機会のない子どもたちに対し、病院と協働して活動しています。1年間でさまざまな大きな病院と協働するようになりました。
もう1つの事例は、「バクバクの会」といって、人工呼吸器を付けていないと生きていけない方たちの全国組織の事例です。地域ごとの組織がありそれが連合して全国組織になっています。そういう方たちが、呼吸器を付けてない人たちと同じように学校や保育所に行く、仕事に就ける、そういう社会を作ろうと、いろいろな取り組みをしている。その様子を撮って映像記録にまとめ、発表会とセミナーを全国各地で行う活動です。医療的ケアへの理解は、この10年の間で、日本でも理解が非常に進みました。この活動は当事者性と同時に専門性、希少性が高い活動ですね。
5つ目にご紹介するのは、今年コロナウイルスへのワクチンで非常に有名になったファイザー社日本支部がやっている助成プログラムの活動。刑務所を出所した薬物依存症者の包括的な支援です。これは当事者が始めたもので、薬物で苦しんでいる人たちを何とかしたいという想いが起点になった活動です。日本の制度には、薬物に依存している人へは、厳しく罰すればいいという方針がまだ残っています。しかしこの活動は、刑務所に入っている間にきちんとした教育支援を行い、刑務所から出る時もサポートすることで、薬物を正しく断つことができるようにと、当事者と弁護士が、中心になり行っています。
最後にご紹介する事例は、専門家が作った組織で女性の性的虐待に対する活動です。現場を見ると今の政策は現場と即していないというので、現場に見合った政策提言をしているというような団体です。いろいろな活動がありますよね。
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市民活動の価値と未来
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最後に市民活動の価値と未来について3つのポイントをお話します。
1つ目は今までの話の中でも言いましたように、市民性と当事者性と専門性は結びついているということです。当事者と専門家、お医者さんだけだったら対立関係になってしまうところに市民が入ってくると、立場を越えた良い交流が生まれる。市民が当事者・専門家に近づくこともありますし、当事者が市民や専門家に近づくこともある。専門家が市民や当事者に近づくこともある。こういう関係性が生み出せるのは、市民活動の価値だと思います。
それから2つ目は、特にこの10年くらい、「社会的課題の解決」とあちこちで言われるようになってきているけど、僕はそれじゃだめだと思っている。市民課題・社会的課題といった「見えている課題」の解決も重要だけれども、その先にある社会的価値の創造も大切です。社会にはまだ見えないいろいろな価値、新しい視点がある。まだ見えないものを作っていくというのも市民活動の非常に大きな役割なんですね。
社会的な課題が顕在化するまでには、実はものすごく時間がかかっているんですよ。例えば地球温暖化の問題。当初は、ここまで世界的な問題であるとは認識されていませんでしたが、ノーベル賞の候補者になったグレタ・トゥーンベリさんのような、非常に先駆的で挑発的な活動があって初めて課題が鮮明に見えてくる。まだ見えていない社会的価値の創造の中には、そういう全く新しい課題、見えていない課題を見えるようにするというのも入ってくると思います。
3番目は何よりも楽しく活動できることが大切ということ。「社会的課題の解決」は大切だけれど、「社会的インパクトはどうなっているんだ」というようなことばかり議論していてもつまらないですよね。成果が出てくれば楽しいし、課題が解決されるというのは楽しいのだけど、課題解決を急ぎすぎるとね、だんだんつらい・苦しい活動になっていくんですよ。それは問題だなと思います。
すぐに成果を見たい人もいる。すぐに成果は見えなくてもいいという人もいる。人によって違うのですがどの視点も大事です。あるいは、その時々によって、自分の態度も変わるかもしれない。そういう中で、やっぱり市民活動っていうのは、すぐに成果の出やすいことをやっていくことも必要ですが、「成果なんてどうでもいいよ、これ大事なんだからやっていこうよ!」というのも必要。つまり「ごちゃまぜ」。どれかがいいというより、「ごちゃまぜ」の活動の方が長持ちするんじゃないかなっていう感じを抱いています。
以上3点、私がずっと思っていたことをお話しました。この3点が今社会にきちんと理解されることが重要だと思います。この「ごちゃまぜ」というのは合理的じゃない。マネジメント上から言うと、「ごちゃごちゃ」はよくないんですよ。だけど市民活動というのは少々効率が悪くても「ごちゃごちゃ」のほうが、いざという時に楽しいし強い。これからは、「ごちゃまぜのマネジメント論」について、皆さんと議論する必要があるのかなという感じがしております。
そんなところで時間が参りました。ご清聴ありがとうございました。この後、質疑応答をしながら、皆さんと考えを深めていきたいと思います。
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質疑応答
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Q1. 私どもの団体は地球温暖化に向けての地域の取り組み、自然エネルギーの普及という活動をしております。大学関係者や一般市民、地域で省エネ活動をしている方など多様な方を集めて活動しています。自分たちの活動は「社会的価値の創造」にあたる活動だと認識していますが、行政との協働があまりないのが現状です。業務委託という形ではなく、地域の活動を変えていくというスタイルで活動しています。そのあたりのことについて、先生から示唆をいただければと思います。
A1. 地球温暖化の問題はすごく難しい問題ですが、自治体や国でいろいろ政策を取っている。太陽光発電の蓄電池など、東京都は相当の補助金を出していますね。それ以外の取り組みとして市民団体ができることの1つに啓蒙活動がありますね。市民レベルの活動と行政レベルの活動があると思いますが一緒にできるとしたら、環境問題に関するフェスティバルやフォーラムの開催やキャンペーン的な広報・啓蒙活動ですね。国よりは自治体とのほうが市民活動と一緒にタイアップできることはたくさんあると思います。その時に注意したいのは、環境問題は誰の責任か?という責任追及型になってしまうとなかなか協働が生まれないということ。そうではなく、地球温暖化の本当の問題は何か、自分の生活パターンをどのように変えたらいいのか、そういった市民の視点に密着した文脈で行えるといいのではないかと思います。
あるいは行政がやっている温暖化問題への施策に対して「それはやっぱりおかしいんじゃないの?」ということがあるという場面もあるでしょう。そうした場合は、まず話し合いの場、対話の場を作るというところから始めるのがいいのかなという気がいたします。
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Q2. 町内会・自治会に入っている者です。先ほどの先生がおっしゃっていた「市民活動はごちゃまぜがいい」という点についての質問です。確かにそういう部分もあると思うのですが、「ごちゃまぜ」だと、組織内になかなか統一性を持てなくて…。そうでなくとも現代は非常に多様性の社会になっているので、いろんな背景が交差していて、組織として次の一歩を踏み出せないという場合もあると思うんです。そのあたりはいかがお考えでしょうか?
A2. 「ごちゃまぜのマネジメント論」はまだ世の中にないので、これから作っていくしかないと思っています。しかし、色々な市民活動の様子を丁寧に見ていくと、いろいろな価値観を持っている人が集まった団体の方が、結果的には面白い活動をやりながら継続しているなあという印象があります。
例えば男性中心の団体は「きちんと早く成果が出ること」を期待する人が多いです。女性中心の団体は「成果なんてどうだっていいじゃないの、私たちが楽しければ続けていこうよ」みたいな形の団体のほうが多い。だいたい環境系は男性中心で、福祉系は女性中心になっていることが多い傾向もある。理屈で物事を考えていこうという人と、理屈でなくて感覚として「私は納得できないんだ」と考える人もいる。
それも、団体の中で対話を重ねることによって両方意味があるんだなというのを分かったうえで、「今はこれでやってみよう」という了解が必要なんだと思います。だからごちゃまぜの組織は「バラバラでいい」ということではなく、お互いの多様なやり方を認め合えるような組織を念頭においてお話ししました。
この「ごちゃまぜのマネジメント論」は、これからぜひ皆さんに作り上げてほしい。いろいろな地域の動きを見てみると、単純な、一本論理で進んだ団体は行き詰っちゃうんじゃないかなという感じがしていますが、現段階では私の思い付きにすぎない。難しい話なのでどうもまだ私自身もきちんとお話できる段階ではないですから、引き続き皆さんと考えていきたいと思っています。
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Q3. 先ほどのお話にもあったように、私も個人(Person)とかグループ(Group)を支援している立場にあるのですが、社会的な使命や個人のパッションがなくなっていても法的組織(Corporation)だけを目指している団体がけっこう多いんです。さらに法的組織(Corporation)の形をしているけど使命も特になく活動を続けている団体というものもあるんです。そこへどういうソリューションをすればいいのか、悩んでおり、アドバイスがあればお聞きしたいと思います。
A3. グループ(Group)と任意団体(Organization)の蓄積を持って法的組織(Corporation)になった団体は底力がある。グループ(Group)と任意団体(Organization)の体験がなくて形だけ整えた団体のことを「G抜きO抜きのC」と言っています。NPO法ができてから最初の5~6年から10年くらいは、何もないんだけれども10人会員集めて3人の理事を作って法人を作る「G抜きO抜きのC」がたくさん日本でも作られましたが、その後バタバタと潰れてしまいました。やはりGはともかく、Oの経験が半年でも1年でもいいからあった上でCにいかないと形だけのCになってしまいますね。
僕は1年くらい任意団体(Organization)をやってから法人化するほうがいいんじゃないかな、慌てなくていいんじゃないの?と常日頃言ってます。実際には「法的組織(Corporation)になれば行政との協働もできるから早くCになりたい、だけど実力は何もない」という団体はまだけっこうあるけれども、以前よりはだいぶ減ってきていると思います。
Q3(続き). 追加で質問です。そういった健全でないグループは潰れたほうがいいという考え方も1つなのですが、できれば何らかの手立てをして健全的な団体に変え、ちゃんと活動してもらいたいという気持ちがあるんです。その場合にどういう働きかけをするといいでしょうか?
A3(続き). 代表者や理事会がどこまで歩き回れるかに左右されますね。ただ、「うちの活動はこの程度でいいんじゃないの~?」というスタンスで「今年度の支出はゼロでした。事業計画は何もやりませんでした」という報告を毎年所轄庁に出していれば、その団体を潰すわけにはいかないのが現状です。詐欺まがいのことをやっている団体が存在するのは困るけれども、何も悪いことをしていないなら、そのままそっと眠っといて(笑)と思います。
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そろそろ質疑応答の終了時間が来たようです。鼎談のあとにもまた質疑の時間はありますから、何か思いついたら今みたいに活発な、私がたじろぐような(笑)質問をたくさん出してもらえればうれしいです。熱心なご質問をどうもありがとうございました。
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