【実施報告】まちカフェ!インクルーシブ研究会vol5「性の多様性を知り、みんなで仲間になろう!」を開催しました
11月7日(木)、まちカフェ!オープンデー内で<まちカフェ!インクルーシブ研究会vol5「性の多様性を知り、みんなで仲間になろう!」>を開催し、11名の方にご参加いただきました。講師は、町田市男女平等推進センター職員斎藤和さんと編集者・デザイナー星乃みなみさんです。斎藤さんからは、「性の多様性の基本的な知識」と「町田市性の多様性の尊重に関する条例」について、星乃さんからは、「小さな傷つけ:マイクロアグレッション」をテーマに差別を生み出す「言葉」について考えるお話をしていただきました。
インクルーシブ研究会vol5 結論と考察
1 自分の当たり前が必ずしも相手の当たり前ではない
2 小さな人権から大切にしよう
3 「自分の身近にも性的マイノリティの人がいる」という意識をもって行動する
考察: 一人ひとりの言動は、社会の縮図。自分の当たり前が相手の当たり前ではないという認識に立ち、知り、行動することが差別のない社会をつくっていく。 |
斎藤和さん(町田市男女平等推進センター職員)
前半に「性の多様性の基本的な知識」について、後半に町田市が昨年4月に施行した「町田市性の多様性の尊重に関する条例」について説明させていただきます。
1 「性の多様性」の基礎知識>
配布したパンフレット「一人ひとり人ひとりがその人らしく 性の多様性パンフレット」を使って進めていきたいと思います。このパンフレットは、性の多様性に関する基礎知識、パートナーシップ宣誓制度、相談窓口の紹介などをまとめたものです。昨年の10月に完成して、様々な場所で配布をしております。
●性のあり方を構成する4つの要素
・性的指向(Sexual Orientation) 自分の恋愛対象がどの性別に向くかまた向かないかのことを言います。
・性自認(Gender Identity) 自分の性別をどのように認識しているかです。ポイントとして、これは身体的な性別ではなくて、あくまで自分がどのように認識しているかということになります。
この2つは、英語の頭文字をとってSOGI(ソジ)と言います。
・性表現(Gender Expression) 言葉遣いや仕草のことを表しています。
・身体的性別(Sex Characteristics)
最近は、下の二つもあわせてSOGIESC(ソジエスク)という言い方もあります。
●LGBTQ+
LGBTという言葉は聞いたことがある方も多いと思いますが、最近では、性は多様で、4類型では表すことができないということで、そこにQやプラスを加えてLGBTQ+という呼び方をしています。
ここで皆さんに考えていただきたいのですが、LGBTQ+の方が人口の何%位いるといわれていると思いますか?様々な調査結果がありますが、おおよそ7-8%、中には10%前後という調査結果もあります。学校の1クラスが大体30人だとすれば大体2、3人はいるという計算になります。そう考えると結構多いのになぜLGBTQ+の方は見えてきづらいのか。それは、見えないようにしている方が多いからです。今の社会が言えない雰囲気という現実もあります。
●SOGIとLGBTQ+
「LGBTQ+」は、人を指す言葉です。一方、「SOGI」は、性のあり方とか要素のことで、全ての人に当てはまる概念、意味を表す言葉です。つまり性の多様性という分野は、LGBTQ+の方たちだけの分野ではなく、すべての人に関係するものであるということをお伝えできたらと思っております。
●当事者の声
パンフレットには、当事者の声も載せています。私が数人の当事者の方から聞いた苦労の中で、共通して聞いたことがあることを1つ紹介したいと思います。それは何かというと、恋愛の話がしづらいということでした。特に若い時はこの手の話になることがあると思うのですが、そういったときに当事者の方の中には、本当のことを言えないで嘘をついてしのぐという方が結構多いということがわかりました。今の社会が言えない雰囲気というのが現実としてあるからだと思います。少し前に比べたら徐々に差別や偏見も和らいできているかもしれないんですが、それでもまだまだそのような部分が根強く残っているという現実があるということを、皆さんも知っておいていただけたらと思います。
●カミングアウトとアウティング
「カミングアウト」の意味はなんとなくイメージがつくと思います。本人が表明をするものです。一方で、「アウティング」は、他人が本人の許可なく性的思考とか性自認を暴露するっていうことです。これは、重大な人権侵害に当たりますので、絶対にしないようにしていただけたらと思います。
●性の多様性を理解し、一人ひとりを尊重するためにできること
パンフレットには6つのできることも掲載しています。その中で1つだけ、特に意識してほしいということをお伝えできたらと思います。「自分の身近にも性的マイノリティの人がいる」という意識をもって行動するということです。
2 「町田市パートナーシップ宣誓制度」
この制度は、行政、都道府県が2人の関係を公的に認めましょうという制度で、パートナーシップ宣誓証明書を発行しています。ちなみに、町田市では、昨年の4月からこの制度がスタートしまして、現在までに13件の宣誓がありました。
条例とは、地方公共団体の区域内つまり、町田ですと町田市内において適用される自治立法、自分たちで作れるルールです。国の法令に違反しない範囲で定める、そして議会の議決が必要となるという2つがポイントです。
第1条の目的と第2条の基本理念、これが特に大切な内容です。そして個人的に一番力を入れたところは、第7条に「教育に携わる者」の役割を入れたことです。
条例で一般的に多いのは、「市、市民、事業者」という表現です。今回の条例では、あえて「教育に携わる者」を特出しています。まずこの教育に携わるものの定義ですが、小中学校の先生だけに限ったことではなくて、あらゆる教育に携わる方を想定しています。では、なぜこれをあえて入れたかなのですが、先生という立場の方の影響力は、想像以上に大きいと考えているからです。教育用語で「隠れたカリキュラム」という言葉があり、先生の無意識の言動が教わる側へ大きな影響を与えているといわれています。性の多様性の分野においても例外ではなく、先生にたとえ悪意や悪気がなかったとしても、それが受ける側にとっては刷り込まれていくということがあります。条例を作る過程の中で、教育に携わるものというのは「事業者」に含まれるのではという意見もありましたが、そうした理由なども踏まえまして、こだわって入れることにしました。
次のポイントとして、第8条にカミングアウトとかアウティングについても明記をしています。条例のメリットをいかして禁止事項を明記しております。
続いて最後のポイントは、第10条にパートナーシップ宣誓制度の根拠を条例に位置付けたことです。多くの自治体は、その根拠を要綱に位置付けています。要綱は、条例と違って市・市長の決裁だけで作ることができます。条例にすることで、行政側だけではなくて、市民の方に選ばれた市議会としても決議している、意思決定をしているものであるというのを表明できるという部分が要綱とは大きく異なる点だと私は思っております。
3 最後に 平等と公正
この画像を見たことある方も多いと思います。公正と平等の違いを説明するイラストです。どちらが望ましい状況なのかということをこのイラストを見ると皆さん一目瞭然でわかると思います。
パートナーシップ宣誓制度ができることで、同じような景色が見えるようになる。そのために制度があると考えます。
この絵の中の一番背の高い方は、日常、何も不自由なく景色が見えるので、なかなか一番背の低い方の困難が見えづらくなってしまいます。見ようとするには、しゃがんだりして意識して同じ目線で考えたりしないとなかなか見えてこないと思います。LGBTQ+の方の困難を想像したりだとか、実際の困難を知ったりすることもこの絵でいう公正を実現する一つの方法かなと思います。
誰もが、1番左の側の人になる時もあれば、右側の人になるときもあります。インクルーシブを考える上で「自分の当たり前が、必ずしも相手の当たり前ではない」ということがとても大切だと自分は思っています。ちょっと偉そうに言ったのですが、これは自分への戒めという意味でも、研修の際には最後にお伝えをさせていただいています。
星乃みなみさん(編集者・デザイナー)
●小さな傷つけ:マイクロアグレッション
私からは、「小さな傷つけ:マイクロアグレッション」についてお話しします。言った本人には悪意はないけど積み重なり結構大きな傷になる。これは、セクシャルマイノリティに対してだけじゃなく、数多くあることなんじゃないかなと思っています。
小さな差別を積み上げていくと最終的にはジェノサイドまでいく。ちょっとした冗談とか軽い気持ちで言ったつもりの言葉が、だんだん差別になっていきます。差別をしようと思って差別をする人もいますけど、 そうじゃない差別もあるということを知ってほしいです。
「旦那」、「奥様」などの言葉や日本語そのものに女性を差別する構造が含まれていることがあります。代わる言葉がないのであれば日本語を変えていくしかない。「日本語の性別が組み込まれている表現をニュートラルな言葉に変えていく必要がある」ということを覚えておいてください。
また、こういうお話をすると「あれもこれもといわれると、もう何も言えなくなる」、「普通の人間が生きづらくなった」とおっしゃる方がいます。こういう逃げ方はしないでください。
そもそも普通ってなんでしょう。差別は絶対に「なくならない」ではなくて、なくしましょう。なくしたいですよね、差別。「差別ではなくて区別」という言葉もありますが、区別も差別です。性別や地位を特定する言葉を使わない。聞かれたくないことを聞かないようにするということが大切です。
それ以外にも例えば「男とか女というより○○さんという感じ」「色々な人がいてもいいよね(多様性)」という表現も性的マイノリティの人は傷つく言葉です。
「マイクロアグレッション」は、社会の縮図です。社会に偏見とか差別が転がっているから起きるのだと思います。相手の生きざまを想像できる余地があれば、こういう話はしないのではないかなと思います。
人権は憲法の上にある「自然権」です。人間が持って生まれて人間が存在してるが故にある権利なんです。小さな人権から大切にしようということを今日は一番お伝えしたいと思っています。
質疑応答
質問:多様な性を持つ人たちに必要な配慮の例があれば教えていただければと思います。
星乃さん:理想は性的マイノリティに何も配慮しないでも大丈夫な世の中になることなのですが、やはり性別を特定するような表現とか、恋愛対象を特定したりするような言葉はカジュアルに発言すると傷つく人がいます。性的マイノリティに対して配慮するのではなくて、誰にでも同じように配慮するべきじゃないかなと思います。
斎藤さん:先ほどもお伝えさせていただいたんですけれども、自分の当たり前っていうのが必ずしも相手の当たり前ではないっていうところを念頭に置いていただくことが大切だと思います。もちろん知識はあった方がいいのですが、その大前提を踏まえて行動していただければ、だいぶ違ってくるのかなと思います。
質問:「平等と公正」のイラストの立っている階段というか箱は「配慮」を表しているのでしょうか。
斎藤さん:同じ景色が見えるようにするための「手段」ですね。それが「配慮」のこともあるだろうし、「制度」ということもあるので、「配慮」もその手段の一部かなと思います。
質問:私も、この絵は色々なところで目にしたことがあって、すごくわかると思っているんですけど、こういう状態にするためには、やはり「この人はどういう特性を持っているのか」ということを知ることが必要かなと思います。ただ、それを知るために直接聞くのも配慮のない行為なのかもしれないと思い、戸惑いました。何かご意見があれば聞かせていただきたいです。
星乃さん:先日、イベントのディレクターの方から直接ご連絡いただいて、多目的トイレを〈オールジェンダートイレ〉に変えた方が良いのか、というような相談をもらいました。トランスジェンダーの人口の1%以下です。たしかに社会で話題になってるほどあなたのそばにいないかもしれないけど、かといって全く存在しないというわけではありません。むしろ必要以上に配慮されたことで、当事者性が自明になってしまって、〈オールジェンダートイレ〉をつかいづらいトランスジェンダーは多いと思います。
では、〈誰でもトイレ〉と言う名前はどうでしょう。インクルーシブにするため、車椅子のピクトグラムの下に〈誰でもトイレ〉という記述をするのです。〈誰でもトイレ〉と言う言葉は〈誰でも〉使えるトイレという意味ですから、その言葉にトランスジェンダーを想起させる意味はありません。〈誰でも〉使えるトイレというのは、〈誰でも〉使わなくてもいいトイレなので、そこに強制感は感じません。同じ配慮でも、〈オールジェンダートイレ〉と〈誰でもトイレ〉では大きく違うのです。そして、1%以下のトランスジェンダーより明らかに多い、異性介護や、異性の子育てによる利用を偏見なくインクルーシブしてあげて欲しいと思います。
<参加者の感想>
・傷つけるつもりがない時の方が傷つけてしまう事がある。これは他の差別偏見にも言えると思いました。大切なのは本人がどう感じるか。やはり先入観や型にはめて考えないことが必要だと思います。
・登壇されたお二人の話がとても良かった。斎藤さんの話は普段市役所の職員さんがどのような思いで、どんな業務にあたられているのかを知ることができ、貴重な機会だった。
・LGBTQ+の方の傷つきが決して特別なことではなく、自分自身も何かしらのマイノリティであり、傷つきを感じることがある。それと同じなのだと理解することができた。