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実施報告performance

実施報告 2022年10月03日

【開催レポート】まちだづくりサロン特別編「『協力』のテクノロジー~違うを大切に協力できる地域をつくる~」

9月10日(土)、ぽっぽ町田の会議室にてまちだづくりサロン特別編「『協力』のテクノロジー~違うを大切に協力できる地域をつくる~」を開催しました。講演会では、NPO法立法を推進するシーズ・市民活動を支える制度をつくる会を創設し、NPO法をはじめNPOに関連する法律や制度の創設、改定の中心的役割を担ってきた松原明氏に講演いただきました。

松原氏は2022年4月、共著で『協力のテクノロジー 関係者の相利をはかるマネジメント』を出版され、価値観が多様化する現代において「違う」者同士が力を合わせる「協力」について、誰もが習得できる技術として体系的に解説しています。当日はこちらの本を題材に、事例を交えながら協力の技術について解説いただきました。

後半は「サポートオフィススタッフが深掘りする『協力のテクノロジー』徹底解剖!」と題し、スタッフと会場の参加者から質問を投げかけました。講演の時間いっぱいまで、非常に実用的な質問があがりました。

 

*本レポートでは、講演会でのお話と質疑応答の一部をご紹介いたします*


自己紹介

NPO法(特定非営利活動促進法)という法律があります。1994年までは法律が無かったので、多くの団体が法人格が取れない、行政との契約が取れないといった状況がありました。そこで、法律作ろうよ!ということでみんなでNPO法を作る団体「シーズ・市民活動を支える制度をつくる会」を設立しました。その後、認定NPO法人制度、NPO法人会計基準など、NPOを支える制度を作ってきました。今は療養中なので、仕事を聞かれたら「主夫」と答えます。ちなみに、ネコが大好きです。


話に入る前に前提を確認します。ここ20年くらい、NPOというと「NPO法人」のことだと思う人が増えたんですが、私は「NPO=市民活動団体」という意味で使っています

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「組織マネジメント」と「地域(関係者)マネジメント」

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一言で言うと、この本は「人々の価値観や利害が多様化する現代において、その異なりを大切にしながら協力するための技術」を紹介しています。

地域において利害関係はバラバラです。例えば観光を例にとってみると、地域の観光を推進する立場の人もいれば、「外国人は出ていけ!」、「うるさいのは困る」など、生活圏に知らない人が入ってくることに対して不安を感じる人もいます。そんな中、観光事業者が地域と協力しようとしても難しいですよね。

利害関係がバラバラな中、地域をマネジメントするにはどうすればいいのだろう?という相談を共著者であるの大社充氏から持ちかけられたのがこの本の始まりでした。NPO法を作ったとき、たった2人の事務局で全国の関係者を巻き込みながら、経済界・自治体・多数のNPO・福祉団体を動かしてきた私の経験を地域マネジメントに応用できないか?と言われたのです。

私たちはまず「組織マネジメント」と「地域(関係者)マネジメント」はまったくの別物だということを整理しました。地域マネジメントと企業などが実践している組織マネジメントは同じやり方ではできないので、スパッと分けました。地域は利害関係が複雑なので、お金や権力では動かない人たちに付き合ってもらわなければならないからです。

よく地域やNPOのマネジメントに、企業の組織マネジメントの手法を使う人がいるのですが、これは大きな間違いです。市民活動はステークホルダー(関係者)が多いんです。自分の力だけでは世の中を良くしようと思ってもできない。市民活動のポイントは、自分の力だけで世の中を良くできないという認識に立つということなんですね。

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協力はいかにすれば生まれるのか

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<合力5類型>

地域(関係者)マネジメントの3つのポイントは、①交換原理と違う協力原理を使う、②協力の3つのタイプを区別する、③相利評価表で事業設計や成果評価をする、です。

まず前提として力の合わせ方を「合力」と言います。協力は合力の中の一つです。合力には5類型あります。皆さんが誰かに一緒に動いてほしいと思ったときに、この中のどれかを使う必要があるんです。その中でも今日お話しするのが、5 協力についてです。

1 統治 簡単に言えば暴力。政府・軍事力・警察など。相手より大きな力で相手に言うことを聞かせる力。
2 交換 何かあげるから何かちょうだいというタイプ。企業や市場は交換の世界。
3 互恵 助け合い。恩を着せたら恩を返してもらう。交換と異なるのは、必ず返ってくる保障がない点と同等のものが返ってくるとは限らない点。
4 威信 優れたものにひっつくと自身も優れたように感じることを利用した力。カリスマと言われる。宗教などもここにあたる。
5 協力 AさんとBさんに共通の目標があって達成したいがために力を合わせること。

 

<協力の3タイプ>

「協力」には3つのタイプがあります。協力1.0、協力2.0、協力3.0というものです。1.0より2.0が優れていて、2.0より3.0が優れているわけではありません。状況に応じて使い分けることが大事です。

<協力の組み立て方>
協力した人はみんな同じ利益を得る(同じ目的を達成する)ものだと思う人が多いのですが、協力3.0のポイントは、みんなが得たい利益が違うということ。

それぞれの利益は違ってもそれぞれが実現する状態を「相利(そうり)」と呼びます。相利が実現できれば、活動に反対している人とも協力できるのです。

協力のテクノロジーでは、「相利評価表」というフレームワークを使って、関係者、関係者の課題、関係者の利益などを整理します。

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NPOとは何か

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今のNPOは非常に危機的な状況にあると思います。NPOは、「社会課題を解決する組織」だとか「非営利の組織」と言われています。これ自体は間違いじゃないんです。ただ、この理解だけだと困るんです。

NPOの活動モデル・事業スタイルの中で、今一番多いのは、「非営利企業モデル」。支援者から寄付(資金)を集めて、受益者にサービスを提供して、そこから成果を得て、支援者に成果を返す(報告する)というモデルです。

企業は「交換の原理」で成り立っているので、商品やサービスを提供すれば顧客から同等のものが返ってきますが、NPOの活動の性質からすると、受益者からは同等のものが返ってくるとは限らない。「非営利企業モデル」では、限界があるんです。

また、NPOには「利益を分配しない」という特徴もありますが、日本の企業って7割が赤字企業なんですよ。ほとんどの企業が利益を分配していない。

では、NPOとは何か。NPOの力の源泉は協力にあります。NPOの目的は市民性のある市民を増やすこと。企業もNPOも社会課題を解決する。ただ、NPOはその問題に取り組む多くの関係者(市民)を作り出すという方法で解決します。

NPO法という法律はうまくできていて、第1条に「市民が行う自由な社会貢献活動としての特定非営利活動の健全な発展を促進」と書いてあります。個々の市民に焦点を当てているんです。NPO法人が強く大きくなることを目的としておらず、関係者が大きく強くなることを目的としています。

こうして見ていくと協力を生み出せないNPOは、なんのためにNPOやってるの?ということです。NPOは、協力のプラットフォーマーとして地域マネジメントをしていくことが大事な仕事なのです。

 

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NPO3.0とは何か

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NPOに参加したい市民がこの20年で減少しています。これは内閣府の調査ですが、阪神淡路大震災の頃(1995年当時)は半数以上が参加したいと答えているのに、2013年には17.5%となっています。

一方で社会貢献したい人の数は年々増えています。ずっと上がり続けています。3人に2人は社会のために頑張りたいと思っています。

ボランティア活動や社会貢献をしたい人は国民の3分の2はいるけど、ボランティア活動をしている人は3分の1弱しかいない。

NPO法人に期待するものを聞いた調査では、「人と人との新しいつながりを作る」「市民の自立や自主性を高める」「やりがいや能力を発揮する機会を提供する」が回答の上位です。簡単に言うと、「NPO活動に参加して自分がしたいことをしたい」のです。

NPOはまず、自分の力だけでは世の中は良くならないという認識のもと、地域の人たちや企業や自治会・団体と一緒になって地域を良くしていく必要があります。ただし、皆さんの活動に関係者全員が必ず賛同するわけじゃないということがポイント。みんなそれぞれ忙しいし、それぞれに問題を抱えている。地域でみんなで良くしていきたいんだったら、みんなが利益の出るようなプログラムを考える。関係者の抱えている問題はなにか、関係者がどうしたいのかを調査して、それがちゃんとできるように事業を組み立てるということをやっていくとが大切です。

関係者の想いや価値観の違いを「違うもんは違う。それぞれの正義が揺らぐことはない」と考えましょう。相手の価値に合わせてプロジェクトを作っていく技法を学んで実践していくと、その積み重ねがつながりになっていきます。

 


<サポートオフィススタッフが深掘りする『協力のテクノロジー』徹底解剖!&会場からの質疑応答>

Q.私でも使えるかな?というのが正直な感想です。マネジメントする側ではない立場で協力のテクノロジーを使いたい!と思ったときに個人にもできることはありますか?

A. この技術は非常に簡単で誰にでも使えます。この本は技術書だと思ってください。サッカーの技術書を読んだからといっていきなりドリブルがうまくなるわけではないのと同じように、この技術も練習が必要です。

相手の考え方を受け入れようと無理に思う必要はありません。この人はどういうレンズを持って物事を見ているのかということを理解するだけです。相手の考え方が正しいか間違っているかも一旦置いておきましょう。知り合いでこの技術を使い、20年間続いた親子関係の問題の解消ができたという人もいました。夫婦関係にも使えるという方は多いですよ(笑)

とにかくこの技術は相手を打ち負かせるのが目的ではありません。その先に協力を作りたいのですから。相手の考えていることが正しい/正しくないはさておき、一旦脇に置くことに慣れましょう。人間社会はそういう技術の積み重ねでできています。

 

Q.この本の中に「配慮と公正」についても解説があると思います。その点も詳しく教えていただきたいです。

A お互いの協力関係を成り立たせるためにコアになるのはフェアネス(公正)の感覚です。例えば狩りをしたときに、獲物の9割は俺がもらって1割はお前のものだ、としたら二度と協力が生まれないですよね。協力は1回限りだと意味がありません。ずっと協力関係を続けるためには、相手にフェアだと思ってもらわないと次の協力が生まれません。

フェアネスを生むということは、相手が何をフェアと考えているかを考えること。共通の目的を立て、それぞれの取り分がきちんと確保されている状態のこと。取り分の中身は違ってもいい。相手がどういう取り分を望んでいるかを考える必要があります。二次方程式の関係で言えば、XはYの目的が達成できているかどうか心を配る。それが配慮です。

 

Q3.(会場)先ほどの講演の中で、「話し合いでは合意形成できない」というお話がありました。対話では合意形成できないという意味をもう少し詳しく教えてください。

A. 話し合いを否定しているわけではなくて、話し合いはパートの1つだということです。話し合いは必要だけれど、それだけじゃだめだということです。話し合いで合意形成ができる場合もあります。

この本では、「共通」と「共有」を分けています。「共通」というのは、AさんとBさんが共通する部分を探す作業。共有というのは、AさんとBさんが重なり合うことはないのだけれど、別のものを作るということです(下図参照*当日は講師がホワイトボードを使いながら説明した)。
共通の利益を見つけ出すほうがが分かりやすいのですが、世の中なかなかそれがうまくいかないのが現実。だからこそ「共有」できるものを開発することが大切です。無いものを作り出すということです。「共有」の良いところは、多人数関係になったときに使いやすいということ。

Q4.(会場)活動をしている中で、NPOや市民活動に関心がない方も多くいらっしゃいます。この本を読んでいない、意識していない方に伝える方法として何かありますか?

A 意識する・しないというより、その人の立場に立つのがポイントです。その人の立場になってその人がしたいことをできるように、こちらの活動がどう役に立つかということが大切です。相手がもっと楽しい!と思える活動を考えることで、こちらにも関心が向くのだと思います。

やっていて楽しい活動に対してじゃあ貢献しようか、と思うのが人間なのでそういう状況に持っていくということですね。もっとどうしたいか?と聞いてみることも良いですね。あなたはここに来てなにが楽しいの?と聞いてみるといいと思います。

 


イベント終了後は名刺交換タイムを設け、講師の松原さんに話しかける方も多くいらっしゃいました。「本にサインをください!」と列ができるシーンも。温かく笑顔ががたくさんの会になりました。

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